B&B(民泊)朝の庭
夜九時過ぎ。陽が沈んだ後の空の色は白い。
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写・文 Kyoko Murakami No.2 朝食は、イタリー人ペアとカナダ人家族と共に、フランス語しか喋れない B&Bのオーナの奥さんが焼いたクロワッサンとママレード、ミルクとコーヒーを テラスに置いたテーブルで頂く。そのクロワッサンの美味しいこと! コーヒーは、カップで飲むのではなくて、プロバンス風分厚い陶器のどんぶりで飲む。 初めはコーヒーカップがない、と思い、そのどんぶりで飲む、と知ってびっくり! 英語が苦手な隣人達とも共通語は英語。 隣人達も又、ゆっくり考えながらカタコトの英語で喋る。 奥さんはお構いなしにフランス語だ。B&Bオーナーは二時間かけて街の会社へ行き、 帰宅すると暗くなる迄この庭の手入れをしてる。たった二年でこの美しい庭を 楽園にしたそうだ。一面の芝生、小さなプール、咲き乱れる花々。 ドアを青く塗るのも旦那さんの仕事、マイケル・ダグラス似の旦那さんにカメラを向けると 「こんな格好だからダメ」と言う。「じゃ、明日はタキシードに着替えておいてネ」と冗談を言い 翌日の夜、「着替えたから撮っていいヨ」と庭に表れた。昨日とたいして変わらないスタイル。 フランス人にカメラを向けると必ず「着替えて来る、と言うヨ」と伊織に聞いていたけれど 本当に本当だった。昨夜はTシャツだったから、襟が付いているシャツかどうかで、 普段着と分ける文化なのだ。写真に撮られる時はよそゆきで、と昔風だ。 気取った店だと、男性は「上着着用」と言うのはよくあるが、夏だと、襟付きシャツかどうかで 欧米では入店を断られる事がある。 隣の部屋のカナダ人のご主人は静かに朝からテラスで読書する。 子供達はプールではしゃいでいる。 朝の光に咲く 庭の花たち |
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セナンク・トラピスト修道院
見晴らしは180度
@誰もいない高台にそびえ立つ城壁
突然迷い込んだ夢の道? !! |
B&Bの庭から車で自動開閉のフェンスを開けて道に出ると、
ほんの数分で通り過ぎてしまうアルピレスの村に数軒の店があるだけで、 後はもう白く続く乾いた路、夏には緑の小高い丘が点在する平原。 たまに見かける民家は、薄いクリーム色や白い土壁の土蔵の様な四角い家、 あせたオレンジ色の瓦屋根。 ローマ時代からあるセナンクの村、1800年前の建物のトラピスト修道院の、 くすんだ色の石の塔に向かって、一面のラベンダー畑。ジリジリの太陽、でも聖堂の中は寒い。 雪を頂いたアルプス山脈を望むぶどう畑、オリーブ畑の続く道を更に走り、 小高い山道を登り続けると突然現れたのは大谷石を積み上げた様な城壁。 城壁前の見晴らし台の様なスペースに車を止め、 下を見ると遙かにノートルダム・ド・ビーが見える。 西暦600年から聖地とされる、その古い教会で伊織は夏休み二週間の間、 ボランティアで働くのが目的で渡仏したのだった。 杏やさくらんぼの収穫、ワイン作りなどするらしい。 大自然の中での自給自足の生活、六時間働き六時間瞑想、と言う日課に入る前の数日を こうしておかぁとの親子小旅行にあてたとの事。 ふと気がつくと、見晴らし台に立つ巨大な塔の城壁にアーチ形に空いた出入り口がある。
A城壁に不思議な入り口があった! B中に入れるのかなぁ あれ? この中に入れるみたい、とアーチをくぐって見ると… そこから小さな村が始まっていた!城壁の外から見ると、それは想像もつかない景色だった! 大自然に取り残され山のてっぺんにそびえ立つ人の気配もない城壁。 城壁内側にはオリーブの蔦が這い、暖かい色の家が並んでいる。オリーブの蔦とプロバンス色に塗った青い窓
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誰もいない、こんな所にレストランの看板!
バケットは焼きたてで、テーブルにじかにおくのがフランス式、 テーブルの上をパン屑だらけにして食べる。
山羊のバターもある。
どうヨ、この景色!
スタンド横に置かれたミニカップヌードル。ワインと合わない! Private 総合掲示板 |
城壁の中に続く細い坂道を下る。 物音ひとつしない村。
ライラックが咲きアイビーがからむ古い石の家が数軒並び、行き交う人は誰もいない。 突然、夢の村に迷い込んだ気持ちになる。これ現実?と言うほど静か。 城壁の外は地平線のアルプス連邦まで何もない景色。 こんな石のおうちを真似たお店が、南青山あたりの裏道に最近ポツポツ増えているけど、 これは数百年も前からの建物、そのままだ。 そんな道にブラッセリーの看板がポツンとある。人の気配が全くない道に…。草原と岩の砂漠を越えて来たから、水一杯飲む場所もなかった。 急にお腹が空いて来て中に入ってみる。 きゃああ、お洒落! とおかぁ静かに興奮。 窓際に座る。 窓の外には生い茂るラベンダー越しにかすむアルプス連峰。 ワインの赤、クリーミーな黄、ネイビーな青などのプロバンスカラーに ペインティングした木のテーブルや椅子。 この人影もない村のブラッセリーにもきちんと制服を着たギャルソンが居て、うやうやしく「この時間はサラダしかないのです、ムッシュー」と伊織に言う。 とにかく何かにありつきたい、と「ウィ、ウィ」を繰り返すだけ「ドゥ・サラドゥ」と注文。 日本でのサラダを思い浮かべていたら大間違い。 出て来たお皿には、沢山の緑の葉にトマト、ハーブとオリーブ、エビ、 ムール貝などの地中海の海の幸、ハムやサラミとチキン、そして玉子とクリームと 肉のでかいキッシュなどなどの、てんこ盛り! パンにバターにジャムと蜂蜜、アイスティー。おかぁの夕食の量の二倍はあった。 南仏の田舎でゴハンを食べるのが長年の夢だったおかぁ プロバンスの食べ物は、フレンチとイタリアンがドッキングして、地中海の海の幸が混じる、 そんなに手の込んでいないスタイル。 でも、大きく三角に切り分けたキッシュは絶品で、それだけでお腹はいっぱいになる。 値段は今、ユーロが高いから割高に感じるけれど全部で\1,300位の遅いランチになった。 砂の様に白い土に野菜が育つ様になる迄の歴史は<さぞ大変だっただろう、と ひとつのサラダから沢山の事を想う。 砂地に木は育っていても、乾燥した地に育つ花は少ないのか、花はプランターの中で育ち、 どこの家の窓辺にもゼラニウムが溢れ咲いている。 ゼラニウムは種類が沢山あって、乾燥に強く温暖な気候なら世界中の街角で窓辺で 一番よく見かける花。勿論、うちの窓辺でも一年中、花をつけてくれるのはこのゼラニウム。 見晴台から下に見つけた、ノートルダム・ド・ビーまで車でひと走りに見えたから、 来週から世話になるこの教会を下見に行こう、と息子の提案で食後に車で走り出したものの、 行けども行けども、先に何もない山道が続き辿り着いたのは夕方になっていた。 西暦600年からそのままの外装の白壁に手を当てると、 1400年を越えた重い歴史が手に伝わって来る気がして、 自分の重ねた年齢などほんの一瞬、自身が無になった気がする。 対応に出た若く美しいシスターに、息子が英語と片言トフランス語を混ぜて自己紹介をすると、 静かな部屋に通されて、ホームメイドの冷やした生ジュースやクッキーでもてなされ、 教会内を隅々まで案内して下さる。 息子が寝泊まりする予定の建物の、磨かれて光る深い木の床。 廊下の突き当たりの大きな壺に飾られたひと枝の紅い実のついた木。 開けられたテラスになびくレースのカーテン、人の気配のない静かな階段。 その佇まいだけで神聖な気持ちになり心がじわ〜と癒やされる。 シスターに夕食まで勧められたけれど、これからいくつも山を越えて宿に帰るのに 遅くなると思い、辞退して村に引き返した時間は、もうどこも閉まっていて 夕食にありつけず。非常食用に持って来ていたミニカップヌードルと、 朝の残りのクロワッサン、と言う情けない取り合わせの夕食となる。 |
by Kyoko Murakami /copyright 2004. |